2025-11-08 23:30:44 配信
“全国で唯一”個体数管理のクマ対策先進県 被害を最小限に抑えた「3つの対策」とは
深刻さを増す“クマ被害”です。今週から自衛隊による支援も始まりましたが、生活圏への出没や被害が、後を絶ちません。番組は、事態打開のヒントを求め、兵庫県を取材しました。被害を“最小限”に抑え込んだ3つの対策とは。(サタデーステーション2025年11月8日OA)■クマいないはずの“空白地域”にも
人気観光地の嵐山などでもクマの目撃情報が相次いでいる京都ではクマが生息していないはずの“空白地域”にも。奈良との県境にある京都・木津川市。記録にある2007年から2024年までクマの目撃はゼロでしたが、8日もクマとみられる動物が目撃され、これで49件です。7日、市の職員はクマの目撃情報があった畑でカメラを設置していました。
京都・木津川市 農政課 木下勝史課長
「クマの生息している地域ではないという認識でありましたので、こんなところにクマが出るんだっていう、本当にもう初めてで」
“初の事態”に市の職員も困惑。
京都・木津川市 農政課 木下勝史課長
「何をしたらいいのか、どういう対策をしたらいいのか、といったところから勉強しなきゃいけない」
京都府と相談しながらクマ対策のマニュアルを作成するといいます。
■京都“山には餌がある”のになぜ人里へ?
これまで生息が確認できなかった地域になぜクマが出没しているのでしょうか?京都で30年以上猟師をしている太田さん。
猟師太田時男さん(67)
「ここに罠が仕掛けてありますけど、かからないですね。子グマが去年かかりましたけどね」
8日はシカやイノシシなどの罠を見回り。今年、山で“ある異変”を感じていました。
猟師太田時男さん(67)
「今年はたくさんどんぐりが落ちています。去年はこんなに落ちていなかった」
今年、福知山市周辺のどんぐりの量は2024年よりも豊作ですが、毎年クマに食べつくされるはずのどんぐりが大量に残っていました。京都などでは、山に餌があるのになぜか人里におりてきている状況が起きています。
森林総合研究所 東北支所 大西尚樹氏
「山のほうで実りがよかったとしても人間の食べ物、それが簡単に手に入る場所とか方法を身に付けてしまっていたら、そういった人間の食べ物を食べ続けるという事もあり得ると思います」
■クマ対策先進県の兵庫 被害を最小限に抑える3つの対策
【1】“全国で唯一”個体数の管理
“全国で唯一”のクマ対策によって、人里に出てくるクマを抑えている自治体がありました。兵庫県です。兵庫県立大学の横山真弓教授は兵庫県森林動物研究センターでは研究部長も務めていて、県のクマ対策に20年以上携わっています。
兵庫県立大 横山真弓教授
「イノシシを避けるための柵なんですけれども、ここをクマが飛び越えてしまったことで(去年)栗被害が深刻化した」
2024年、14年ぶりにドングリなどが大凶作になり、クマの出没件数が倍増。去年は2件、今年は1件の人身被害が起きている兵庫県。
兵庫県立大 横山真弓教授
「あらかじめ(クマの)数を減らしていく、ということをしてきたために、被害としては最小限に抑えることはできたかなと思う」
3つの特徴的なクマ対策が功を奏していました。全国で唯一、兵庫県だけが行っているのが、独自のデータに基づいた個体数の管理です。ヘルメットをかぶり、シールドを持った県の職員が向かう先には、箱ワナにかかったクマ。麻酔で眠らせ、首元に注射器で打ち込んだのは「マイクロチップ」です。
兵庫県立大 横山真弓教授
「翌年捕まった(クマの)中に、マイクロチップが何割くらいいるのか、そういった比率をベースに個体数推定を行っています」
クマの生息数が少ない場合は、捕獲したクマにマイクロチップをつけて放すと、翌年に捕獲されるクマの中にも、マイクロチップをつけたクマが含まれる割合が多くなる傾向があります。一方でクマの生息数が多い場合は、捕獲したクマにマイクロチップをつけて放すと、翌年に捕獲されるクマの中に、マイクロチップをつけたクマが含まれる割合が少なくなる傾向があります。
2003年以降、捕獲後に野生に返したクマは3400頭以上。その全てにマイクロチップを埋込み、データを取り続けてきたことで、より精度の高い個体数の推定が可能になりました。兵庫県内のクマは、現在700~800頭いるとみられ、さらに、毎年15%ほどの割合で増えていることも分かっています。これは、放置すれば5年でクマが2倍になってしまう割合です。
兵庫県立大 横山真弓教授
「毎年15%ぐらい増えることが分かっているので、15%ぐらいは数を減らしていく取組みが同時にないと」
【2】全国で最多の“クマの専門職員”
クマの専門知識を持った自治体職員が多いのも兵庫県の特徴です。
その数は全国最多の16人。クマの人身被害のおそれがある都道府県の中でも突出しています。
そもそも、兵庫県は当初、クマの保護のために個体数調査を始めました。しかし、15年前にクマが増えすぎる可能性があることが分かり、8年前、駆除も含む個体数管理へと舵を切りました。
まもなく狩猟期間が始まりますが、今年はクマが減りすぎていることから、クマの狩猟を禁止に。クマを減らさない判断ができるのも、個体数を把握できているからです。また、延べ50頭のクマにGPSをつけ、行動範囲の調査も続けてきました。9歳・雄グマの1年間の動きを見てみると、東側の山に放獣されたクマが人里を渡って西側の山に行き、その後冬眠。冬眠後は、東西の山を行き来していましたが、人里は最短ルートで横切っていたようです。
兵庫県立大 横山真弓教授
「最初は(人里を)ビクビク、サッと渡っている状況なんですが、渡った時にたまたま柿の木がある、栗の木がある、美味しいものがあると、覚えてしまう可能性がある」
【3】ワナの使い方に工夫 ゾーン捕獲&シカ用の箱ワナ活用も
兵庫県ではワナの使い方も特徴的で、「ゾーン捕獲」と呼ばれています。集落から200メートル以内の範囲で、クマ被害が出る前に箱ワナを設置。人里近くに住むクマを積極的に駆除しているといいます。
兵庫県立大 横山真弓教授
「こちらが通常はシカ・イノシシを捕獲するワナなんですけど、ツキノワグマも捕獲可能な許可を出している」
兵庫県ではシカ対策用に箱ワナを多く持っていたことから、クマの捕獲にも使えるよう、制度を変更しました。
■個体数管理などができて初めて「バッファーゾーン」が有効に
7月からは、新たな取り組みもスタートさせていました。
兵庫県立大 横山真弓教授
「メンテナンス不要の電気柵を今試験していて」
これは、自動で電圧が戻るという電気柵。通常は、落ちた枝が触れたりすると、電圧が下がったままになってしまうと言います。
兵庫県立大 横山真弓教授
「いつもと違うものが置かれていると、普通のクマは“鼻探索”をする。その時に電圧が効かなかった経験があると、くぐって入っていく行動に発展してしまうので、一番最初がやっぱり肝心」
兵庫県立大 横山真弓教授
「こちらがバファーゾーン整備事業を行った場所になります」
クマが人里に近づきにくくするための「バッファーゾーン」。整備していない場所と比べると、木の枝や低木が伐採され、見通しが良くなっていることがわかります。一方で、クマの個体数管理や柿の木などの除去ができて初めて、「バッファーゾーン」が有効になるといいます。
兵庫県立大 横山真弓教授
「クマの数が増えてくると、被害防除に加えて個体数管理も強化しないと、クマという動物と共存していくのは難しいなと」
◇
高島彩キャスター:
クマ対策を進める上で重要なのが、クマの生息数の把握だと思いますが、実際にどれくらい正確に分かっているのでしょうか?
板倉朋希アナウンサー:
環境省がまとめた全国のクマの推定個体数を見ると、数が多いのは北海道や秋田県、福島県などで4000頭以上。気になるのは、今年、被害が相次いでいる山形県や岩手県で、こちらは2000~4000頭と、かなり幅がある表現になっています。
高島彩キャスター:
正確に把握できていないということなんでしょうか?
板倉朋希アナウンサー:
クマの生態を研究する、森林総合研究所 東北支所・大西尚樹さんにうかがいました。「クマの数は各自治体が調査しているが、県内すべての山や森を調べるのは難しく、限られた区域での結果をもとに推定しているため、どうしても誤差が生じてしまう」ということでした。
高島彩キャスター:
こうした誤差は、今後のクマ対策にも影響してくるわけですよね?
板倉朋希アナウンサー:
大西さんは「いま“クマの数を減らす”という話が出ているが、正確な個体数がわからなくては“どこまで減らせばいいのか”議論をする際の材料が無い」と指摘しています。ただ、「数字の精度を高めるためには、より広い範囲で長期間の調査を行う必要があり、それには予算と人材が足りない」というのが現状のようです。
高島彩キャスター:
正確な数字の把握は難しいということですが、柳澤さん、いかがですか?
ジャーナリスト柳澤秀夫氏:
予算と人材が足りないのであれば、どうすれば予算を増やせるのか、人材を確保できるのか。自治体任せにせず、国がリーダーシップをとってクマの生息数の把握だけではなく、クマと人の棲み分けができるようにするためには何が必要なのか、これまで以上に踏み込んだ対策に舵を切る段階に来てると思います。
高島彩キャスター:
被害を防ぐためにも、そして生態系を守ることも同時に大切ですからね。そのためにも、やはり実態把握が欠かせないわけですが、正確な数字がつかめないというところに対策の難しさがあるように感じます。
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